粗視化、量子消しゴム、エントロピー

うーん。まとまった内容が書けるかどうか分からないけど書こう。日本語へんかも。

なんでこの記事を書こうと思ったのは、統計力学で広く流布しているトンチンカンな説明に物を申したくなったからだ。この思いは止まらない。

ファインマンの「物理法則はいかにして発見されたか (岩波現代文庫―学術)」からの引用。詳しくは、
「物理法則はいかにして発見されたか」の感想文 - hiroki_fの日記
の5.過去と未来の区別

箱の中に白と青の分子をそれぞれ5個いれたのであれば、1年くらい経てば白と青が分離することもありえるでしょうが、1000万の分子がそれぞれ入っていれば、分離するのは不可能です。

何か秩序だった状態から出発し、分子運動のような不規則な作用がある。

そうすれば、現象は一方向きに進むわけであります。

これは、すっごくトンチンカンな説明。こういう説明は統計力学の教科書に多く見られる。この説明をマトモに受けたら、この広い宇宙のどこかで、過去から未来への時間の流れが逆行している場所があるかもしれないと期待させちゃうでしょ。



甘利俊一の情報理論に面白いことが書いてあった。
エントロピー - hiroki_fの日記

熱力学第二法則 エントロピーの増大の法則を

ΔS(熱力学エントロピー)+ΔS(情報エントロピー)≧0

と書いていた。観測系が手に入れる情報までを考慮しているのは、さすがだと思う。



物理現象は観測系に依存する。

量子ゼノン効果(本文に直接の関係はない。)


物理は観測系にナイーブに依存する。量子ゼノン効果というものもあり、観測装置の時間分解能を高めていくと、実験結果に影響を与えてしまうことが知られている。

簡単に量子ゼノン効果について説明すると、(量子状態=物理的な状態)

ある量子状態が別の量子状態に移行することを考える。例えば、放射性物質核分裂することを考えよう。量子力学により確率的に核分裂することが分かる。その確率は半減期によってわかる。

で、あるタイミングで放射性物質を観測する。そうすると、ある時刻で核分裂をしたかしないかが分かる。

しかしだ。観測するタイミングを早くすると、遷移確率を変化させてしまうのだ。

このことは実験が困難であり、まじめに考えられることもなかったが、最近は実験の精度が上がってきて、観測による影響を真面目に考える必要が出て来た。


ボーズアインシュタイン凝縮の実験とかで量子状態を観測するのだけれども、ほとんどの実験家は、観測による状態変化を考慮しないで解析している。てか、考慮している人なんていない。(大丈夫?)



量子消しゴム


これについては日経サイエンス別冊161「不思議な量子をあやつる量子情報科学への招待」
http://www.nikkei-science.com/item.php?did=51161
が詳しい。「やってみよう! “量子消しゴム”実験」を参照のこと。

二重スリットの実験なのだけれど、「観測装置と対象の間に経路情報を消去するものをはさめば、観測装置は経路情報を得られず、干渉を維持しますよ。」っていう話。

二重スリットの実験がどんなだったかと言うと、


図1

「S1に電子銃を用意して、S2でスリットを用意すると、量子力学的効果によって、経路bと経路cが干渉(一つの粒子が同時に別の孔を通過)して、Fに干渉縞を映し出します。」

じゃあ、b,cのどっちの孔から通ったかを観測すると、干渉縞は消えしまう。


図2

そして、レンズをはさんで、どっちの経路を通ったかを分からなくしてしまうと、


図3

干渉縞は復活する。レンズが経路情報を消去する量子消しゴムの役割をしている。


これって、レンズで観測精度を下げていることにあたる。粗視化とみなすことができる。


系の情報を知れば知るほど、それはエネルギー源として使うことができる。ってのが、ベネットの考えた情報エンジンだ。

ある状態が量子的な重ね合わせであるよりも、量子状態が重ね合わせでないほうが、状態についての知識があるわけで、二重スリットの実験では、どちらの経路を通過しかたが分かる図2の方がエネルギー源として使うことができる。でも、そのために観測装置のほうで、エネルギーを投入してしまっているので、二重スリットの実験で第二種の永久機関を作ることはできない。

まさにこの関係だ。

ΔS(熱力学エントロピー)+ΔS(情報エントロピー)≧0




で何が言いたかったかって?

箱の中に白と青の分子をそれぞれ5個いれたのであれば、1年くらい経てば白と青が分離することもありえるでしょうが、1000万の分子がそれぞれ入っていれば、分離するのは不可能です。

何か秩序だった状態から出発し、分子運動のような不規則な作用がある。

そうすれば、現象は一方向きに進むわけであります。

間違いで、

多粒子系を観察して、エントロピーが低いありえない状態(粒子がある場所でかたまって確認される)を見るのは、観測装置の精度に依存しているわけで、観測装置の精度を上げれば、ありえない状態を発見する可能性があるけど、精度をあげると観測装置のほうが、エントロピーを食ってしまう。

熱揺らぎはあくまでも観測装置の精度の範囲内で測定される。粒子数があまりにも膨大だと、装置の精度には相対的に下がるざる得ないので、装置の精度を超えてしまうようなエントロピーの低い状態は観測されない。(別に粒子がかたまって存在してなくても、系の情報が多ければ、それはエネルギーとして使えるので、エントロピーを使えないエネルギーだと思えば、それは観測によって下がる。よって、系のエントロピーは絶対下がる。)

粒子がかたまって存在するとかばらばらに発見されるとか、どうだっていい話でしょ。かたまっているからエントロピーが小さいとかいう議論はバカバカしい。