エントロピーとは何か?熱力学的量のサイズ依存性について

量子力学の考え方で最近面白いなと思ったことに、
「何を測定するのか、何が測定できるのかを決めないと状態(純粋状態か混合状態)について語れない」
がある。

これって、量子力学に限った話なのであろうか?

僕がなんとなく思っていることの一つに、物理学は
「操作可能性の学問」
ということである。

それが顕著にでるのが、量子力学の測定に関する理論であり、熱力学であると思う。

熱力学とは何かと聞かれたら、
「熱機関で仕事として使えるエネルギーと使えないエネルギーをエントロピー定量化した学問」
というのが良いだろう。

”熱機関で”というのが、ポイント。
熱力学を語るときは、使える装置が熱機関という限定条件がつく。

統計力学エントロピーは、熱力学との整合性だけが正当化の担保であり、最終的にはなんらかの熱機関を想定しているのだと思う。

僕は、エントロピーという量が、本来は
「系に対して、どこまで操作できるのか、どのくらい”使える”エネルギーを系から取り出せるのか」
に依存している量なのではないかと思っている。

熱力学的に変化のない状態にあるものを平衡系と呼ぶ。

散逸流体は、非平衡系の代表格である。
さて、流体の教科書をみるとエントロピーに対する記述はほとんどない。

物理学以前の問題として、ある変数の組の時間発展を知るには、変数の数と同じ個数だけの方程式が必要である。例えば、ニュートン流体であれば、物理量は、質量密度と速度場と圧力である。合計5つの物理量がある。

方程式もこれに応じて、質量保存則とナビエストークス方程式、最後に圧力が質量密度の関数(バロトロピー性)であるとする。これで変数の数と方程式の数が揃う。

エントロピーの情報は何処にあるのかというと、ナビエストークス方程式の中の粘性率の中にある。この粘性率は対象となる物質によって決まる。

流れというのは、考えるに複雑な現象である。速度場という運動学的な部分と、散逸という熱力学的な部分がある。さきほど、物理量の一つとして、圧力を用い、方程式の一つとして、圧力が質量密度の関数ということを使ったが、代わりに、エントロピーを圧力の代わりに使う物理量として、内部エネルギーが密度とエントロピーの関数としても、流体を記述できる。

エネルギー保存則を考えると、流体中では、「全空間上の運動エネルギーと内部エネルギーの和」が保存されていることになる。

しかしながら、速度場というのは、だいぶ恣意的である。

というのは、速度場vとかいた時に、速度場を定める代表的な空間のサイズを決めているのである。例えば、コップの中にある水の流れと、太平洋の海流を考えるときでは、速度場を与える空間のサイズが違う。

ある領域の速度場がゼロだとしても、細かいサイズでみれば速度場が観察できて速度場がある。つまり運動エネルギーがあると見なすことができる。これはエネルギー保存則を考えると観察する空間のサイズによって、内部エネルギー、ひいてはエントロピーの値が依存してしまうことになる。

通常、流体力学では速度場を観察するサイズを固定しているので、観察する空間のサイズによって運動エネルギーが違うとか内部エネルギーが違うとかといった面倒はない。たいていは、物理量としては圧力を使いバロトロピー性を仮定するので、エントロピーといった面倒なものを考える必要もない。

ただ、流体に関する考察が示唆するのは、エントロピーといった熱力学的な量が、速度場をどのサイズで測定するのかに依存している量であるといったことだ。

こういったことは、何も僕の発見でなくて、いろんな人がいろんな文脈で言っている。

熱力学的な量が測定のサイズによって決まるというのは、それなりに知られた事実であるとは思うが、平衡系だけを見ていては、なかなか気が付きにくい。

さて、この熱力学的な量のサイズ依存性をうまく議論した話を僕は知らない。

ところで、乱流を理解するにはサイズ依存性の議論をしっかりしなくてはならないのではないかと思う。

たいていの物理では、ミクロとマクロは特徴的なサイズで分断することができるが、乱流では、エネルギーの流れが大きなサイズからカスケード的に小さいサイズに移っていて、特徴的なサイズをきめにくい。

エントロピーのサイズ依存性をしっかり議論するのが、乱流を理解する一つのポイントであると思うがどうだろうか?