流体力学の変分法

物理の基礎理論の多く特に素粒子の分野では、変分法を用いて解析される。変分法自体は100年以上の歴史をもっていて、相対論、量子論以前の古典物理学においては、一応完成されている。

僕は変分法について何度かエントリーを書いてるが、変分法自体に何か物理的な意味があるとは思ってなく、物理の数学的な体現の一つの方法に過ぎないと考えている。

変分法が体現の一つなら、他にも体現の方法があるべきだが、残念ながら変分法ほど強力な体現方法を知らない。ただ、近年の情報科学の進歩が、情報と物理の同一視を感覚として受け入れられるものにし、情報という観点から物理学が構成しなおされるのではないかと思っている。量子情報の研究はすごく流行っているよね。

ここで「感覚として受け入れられる」という言葉を使ったが、僕はこれを重要なことだと思っている。

人間の論理的な思考は心理的要素に影響されやすく、価値観で如何様にも変わる。科学史を紐解くと学問の方向性が当時の世相によって反映されていることが良く分る。それは天才であろうと変わらず、ルネサンス期の科学者の幾何的な対称美に関する執着心は異常だ。

さて、話がだいぶ飛んでしまったが、流体の変分法について。

僕が把握した分では、1907年には散逸のない系については流体力学変分法は完成している。

しかし、巷にある流体力学の本を見れば分るように流体力学変分法について教科書レベルで書いてあるものは全くない。

物理の基礎概念は変分法に還元することができる。しかし、流体力学については、相変わらずベクトル解析で書かれている。電磁気学も!!

ベクトル解析は、なかなか厄介なもので使いこなすのが難しい。複雑な流れを解析する流体力学は、物理学の中で異色な存在だ。

ちなみに僕はベクトル解析が好きでない。できれば、ベクトル解析は古代のマヤ文明天文学で使われた謎の数学みたいに歴史の中に埋もれてしまえば良いとさえ思っている。

ベクトル解析は3次元空間でしか使うことができないし、点、面、体積などの測度に関する概念が抜けていて、その部分を人のイメージで補う為、かなり厄介だ。

座標変換したときに計算するのも大変だし、ベクトル解析だと100年前の解析力学以来発展し続けたさまざまな手法を使うことができない。

だから、流体も変分法で解析する方法があっても良いと思う。

100年前にある程度完成した流体力学変分法が、何故忘れ去られたのかを考えてみた。

そして、散逸系についての変分法がなかったからだと言う結論に達した。

粘性流体の基礎方程式はNavier-Stokes方程式だが、これにあたるLagrangianがない。

ないから、流体力学はベクトル解析に頼る。

だからそれを作ることにした。

追記 2010年8月18日
完全流体についての論文のリンク
完全流体の変分法 - hiroki_fの日記
追記 2011年4月22日
粘性流体についての論文のリンク
粘性流体の変分原理 - hiroki_fの日記