エントロピー
うーん、統計力学について何かを書くぞーと宣言してしまった手前、何も書かないのはどうかと思うので、何か書こうと思う。
あーだこうだ。頭の中でごちゃごちゃ考えても仕方がないし、とりあえず書いちゃえ。
マクロな状態を特徴づける量にエントロピーがある。エントロピーとは何か?これはマクロな状態を特徴づける量としかいいようがない。例え話で、乱雑さを表す量だとか、熱を表す量だとか、系の持つ情報だとか言うことができても、それは問題を言い換えた*1に過ぎなく、本質ではない。特に統計力学の発想から来る乱雑さを表す量は注意だ。
エントロピーは系の持つ情報だという考え方に最近は魅了されているのだけれど、今回はこれは置いとこう。
重要なことはマクロな状態を特徴つける量だという性質だ。
物理にはLagrangianという量も存在していて、これは運動方程式を定める。
高校の物理では、を力、mを質量、 を加速度として、ベクトル方程式で運動方程式
を書く。これはこれで感覚的に理解できて良いのだが、現在の物理学はLagrangianという何かスカラー量が空間の上にのかっていて、それの極値問題を解くことによって、運動方程式が定まると考える。
Lagrangianはいくつか空間に制限(対称性)をつけてやれば、自動的に定まる。馬鹿な作り方は運動方程式を再現するように作るというのがあるが‥
トニカク、Lagrangianは偉いのだ。何か分けのわからんスカラー量が空間にのっかていて、運動方程式が定まる。
同じように、何か分けのわからんエントロピーという量*2が空間にのっかていて、それでマクロな状態が定まるのだ。
つまり、エントロピーは偉い。理論的にはエントロピーが分かって、Lagrangianが分かれば、系の時間発展が完全に分かるはずだが、それがわからないので困っているのだ。
エントロピーの枠組みを定める信頼のある法則は熱力学の第一、第二、第三法則だ。
それぞれ、
第一は、エネルギー保存則
第二は、エントロピーは常に維持か増大をする。
第三は、温度が0ならば、エントロピーは0
となる。
熱力学の難しさは、第二法則を如何に理解するかにつきる。
熱力学の研究方法としては、
1.気体分子論
2.シミュレーション
3.統計力学
がある。
気体分子論
運動方程式から第二法則を導こうとした試みが、気体分子論だ。
簡単に言うと、気体分子の運動方程式を近似して解く方法だ。
アボガドロ数ほどある分子の運動方程式を解くのは大変、てか無理だから、
時間発展は、速度の分布関数の発展方程式に近似しましょう。
ってやり方。
希薄気体についてはうまく行っている。しかし、粘性流体や高密度の気体、流体についてはうまくいかない。
もっともらしい速度の分布関数の発展方程式が、実は対象となる現象によっては、現実の現象と乖離しているという罠。
シミュレーション
気体分子の各要素についての運動方程式をコンピューターをつかって力づくで計算する方法だ。
気体分子論の結果と比較される。理論が良く分からない、複雑な現象を見るのに有効な方法だ。
マクロを特徴づける量として、エントロピーの代わりに、可能な状態をすべて数え上げるという数学的方便によって、マクロな状態を記述するエキセントリックな理論。
気体分子論が統計力学の前身とされるが、気体分子論の分布関数は物理現象としての分布関数(気体分子の速度分布)だが、統計力学の分配関数は、そのような物理的な意味は全くない。
シミュレーションは実験に近い所もあるので、ほっとく。
熱力学と気体分子論について。
ボルツマンによってH関数というものが考えられ、エントロピーとの関係が考えられたが、ボルツマン方程式自体が、現象論的な近似にすぎないので、H関数を考えることにどれだけ意味があるかは疑問だ。
熱力学と統計力学について。
熱力学では、マクロな状態はエントロピーSによって決まる。
エントロピーはS=S(U,V,N)と、系のエネルギーU、体積V、粒子数Nで定まる。
それに対して、統計力学の戦略はマクロな特徴をある一定の(U,V,N)で可能な状態を全て数え上げることで定量化することだ。
可能な状態を全て数えあげることに物理的な意味はない。*3
状態数Ωは(U,V,N)で一意に決まるので、マクロを特徴づける量として良い性質を持っている。
この人為的な状態数Ωと熱力学のエントロピーSと結びつけることを考える。
平衡状態での熱力学のエントロピーSは、(U,V,N)に対して示量的な性質をもつ。示量的であるというのは、
S(λU,λV,λN)=λS(U,V,N)
が成り立つことである。
さて、統計力学では、状態数Ω(U,V,N)をマクロを特徴づける量として考えた。熱力学のエントロピーS(U,V,N)とどのような関係があるだろうか?
熱力学は現実の物理現象である。一方、統計力学は物理現象を映す数学的方便である。
状態数Ω(U,V,N)には、示量的な性質はないが、以下の関係ならある。
そこで、Sとの対応をつけるために、を考える。
これは、統計力学の数学的方便の圏から熱力学の物理現象の圏への関手を与えていると考えることができる。
すぐに分かるように
となるので、は示量的になる。
そこで、をボルツマン定数として、とする。
ボルツマン定数は、熱力学と整合的になるように決める。*4
これで統計力学と熱力学の関係は言い尽くせたと考えてよい。
あとは具体例だが、疲れたのでまた後ほど。次回くらいでカノニカル分布について話せるかも。