S=k_B log Ω

いよいよ統計力学の本質に迫っていく。



これは
KTln2 - hiroki_fの日記
統計力学 - hiroki_fの日記
エントロピー - hiroki_fの日記
からのシリーズ物です。




系のエネルギーU、体積V、粒子数Nが与えられた時に、熱力学的な情報はエントロピーS=S(U,V,N)に集約される。


平衡状態のエントロピーS(U,V,N)は一意に定まる。熱力学によると系を操作すると系のエントロピーは必ず維持か上昇をする。これは熱力学第二法則と呼ばれるものである。また、非平衡状態のエントロピーS'(U,V,N)は、
S'(U,V,N) < S(U,V,N)
が成り立つ。


非平衡状態はある平衡状態から別の平衡状態への遷移過程と考えることができる。熱力学第二法則によるとエントロピーは必ず増大するから、非平衡状態のエントロピーS'(U,V,N)は新しい平衡状態のエントロピーS(U,V,N)よりは小さくなる。*1





統計力学はマクロに特徴付けられるエントロピーS(U,V,N)をミクロから迫る数学的な方便である。エントロピーを知る代わりに全ての可能性を数え上げる戦略をとる。


大きさVの箱にN個の粒子が詰まっていて、全エネルギーがUとする。量子力学によると、全エネルギーがほぼUになる固有状態が複数個決まる。量子力学によると全ての状態は固有状態の重ね合わせなので、固有状態だけを考えればよい。


一言に(固有)状態数Ωを数えると言ったが、状態を数えるという行為には等重率仮定が持ち込まれている。


等重率仮定とは全ての状態が等しい重みを持つということだ。例えば、林檎の数を数える行為はすべての林檎に同じ重みを与えていることを意味する。*2


等重率の仮定は統計力学においては、平衡状態を表現していると考えることができる。*3


何度も言うようだが、系のマクロな状態を知るにはS(U,V,N)が求まれば十分である。しかしながら、熱力学はS(U,V,N)が具体的にどのように与えられるかについては教えてくれない。統計力学はミクロな方程式(量子力学)からS(U,V,N)を知るための処方箋を与えてくれる。しかし、これは理論的な方便であることを忘れてはならない。


S(U,V,N)は分からない。しかし、量子力学を用いると(U,V,N)が与えられたときの状態数Ωを数えることができる。状態数Ω(U,V,N)はなかなか良い性質を持っていて、(U,V,N)から状態数Ωを一意に定めることができる。


平衡状態の熱力学のformulationが(U,V,N)→Sと何か一意の値S(U,V,N)を与えることを考えると、統計力学の(U,V,N)→Ωは一意にΩ(U,V,N)を与えている。



こ、これは何か素晴らしいことが起きているのではないか?



まぁ、おちつけよ。ジョニー

エントロピーは示量性って性質を持っていたよな。



示量性とは、
S(λU,λV,λN)=λS(U,V,N)
のことである。


さて、Ω(U,V,N)は?
\Omega(\lambda U,\lambda V,\lambda N)= \Omega (U,V,N)^\lambda
あぁ、ダメだ‥


いや、あきらめることないぞ。
log Ω(U,V,N)を試してみろ。


log Ω(λU,λV,λN)=λlog Ω(U,V,N)


あぁ、できた。




まぁ、おちつけよ。ジョニー

示量性を満たすものなら、
αlog Ω(U,V,N)   αは任意の定数
もあるぞ。



なんてことだ。どうしたらいいんだ。


単原子分子からなる理想気体の式(熱力学から決まる)をカンニングしたらどうだ?

U=\frac{3}{2}N k_B T

そっか、α=k_Bにすればいいんだ。*4

でも、他の場合はどうなるの?特殊な例で決めただけじゃん?

いや、この定式化には普遍性があると考えるんだよ。だから、α=k_BでOK。





でも、でも、状態数Ω(U,V,N)がエントロピーS(U,V,N)と
S=k_B log \Omega
で絶対にうまくいく保証はどこにあるの?



そ、それは、しーらない!!*5





ある特殊な状態を表す状況iを集めた(要するに同値類を考える。)時に、状態数Ωで割った量を確率p_iと呼ぶが、このような確率p_iに物理的な意味は全くない。これについてはまた後ほどに。




はぁー、次こそはカノニカル分布について話そう。

*1:非平衡状態でもエントロピーSは与えられているはずだが、非平衡状態のエントロピーを定式化することはまだ満足にできていない。

*2:「この林檎は重要じゃないから0.1個分、あの林檎は重要だから100個分にカウントしましょう」ってなことをしない。

*3:シャノンエントロピーS=\sum -f_i log f_iを最大にする方法は、f_i={1 / n}とすることで、このときシャノンエントロピーは、S=log nとなり、等重率仮定したときの統計力学エントロピーS=k_B log \Omegaに一致する。つまり等重率仮定は(U,V,N)を与えた時の最大のエントロピーを求める操作に対応する。これは平衡状態のエントロピーが満たすべき必須条件である。

*4:実際はいろいろ計算する。田崎p90を参照のこと  http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/statbook/ 

*5:統計力学が熱力学の再現性のみにおいて正当性が保証される」が意味するところは、常に熱力学との整合性をチェックしなくてはならないからである。