熱力学

これは
KTln2 - hiroki_fの日記
統計力学 - hiroki_fの日記
エントロピー - hiroki_fの日記
S=k_B log Ω - hiroki_fの日記
からのシリーズ物です。

なかなか、カノニカル分布の話に行き着かない。

この文書を書くようになってから、熱やエントロピーについて自分の理解が深まった。

梅田さんの「ウェブ進化論」ではブログを書くことが推奨されていたが、自分の考えをブログを通じて表現することは、理解を深化させるのに役に立つ。

ウェブ進化論」はあたりまえのことしか書いてないという印象だったのだけれど、それは梅田さんの考えに共感できるところが多かったからかもしれない。*1




さて、カノニカル分布の話をする前に、熱というものについて整理しとく必要があると考えた。


熱で一番身近な物理量はなんだろう?たぶん温度Tだ。

熱力学の基本変数を温度TにするかエントロピーSにするかの2つの流儀がある。

田崎さんの本は温度Tを基本変数にして書かれている。
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清水さんの本はエントロピーSを基本変数にしている。
http://www.amazon.co.jp/dp/4130626094/

どちらも名著で僕は両方とも読んだ。どちらかというと清水さんの本のほうが好きだ。

エントロピーSよりも温度Tの方が熱力学の基本変数としたほうが、理解しやすいと思うかもしれないが、温度Tとは分かりそうで分からないものだ。




小学生でも熱いとか冷たいとかの概念が知っている。

でも、熱いって何?と言われると答えに窮する。

辞書(大辞泉)で調べると

熱い:温度が著しく高く感じられる。「―・いお茶」⇔冷たい。

と書いてある。


じゃあ、温度とはなんだろう?


次に温度を調べると

温度:物体のあたたかさ・冷たさを示す尺度。熱力学的には物体中の分子や原子の平均運動エネルギーに比例した量を示す。普通の温度計ではセ氏温度やカ氏温度による目盛りがつけられ、熱力学では絶対温度が用いられる。

とある。


そっか、温度とは、物体中の分子や原子の平均運動エネルギーなのか。

じゃあ、温度Tをわざわざ物理量にしないで、平均運動エネルギーでいいじゃん。(小学生の頃の自分)

いやいや、温度は平均運動エネルギーでは語れない性質がありますよ。


熱い物と冷たい物を接触させると熱が熱い方から低い方へ流れます。(熱力第二法則)


結局、温度とはエネルギーとは違う何かなのです。



ところで、エネルギーってなんですか?

えーっと、なんか、ぐわぁってしたもの。カメハメ波とか、元気玉みたいなもの。



いやいや、ネーターの定理によると物理法則が時間を経ても変わらない性質から導かれる保存量です。

これは数学に裏付けられて、僕にはとっても納得いく説明です。



何が言いたかったかと言うと温度Tが分かりきった量というのは、一種の錯覚に過ぎないことだ。


エントロピーSが分からないように温度Tも分からない量なのだ。

これについては、清水さんが文章を書いいる。
なぜ相加変数でやる必要があるのか?

普通の流儀では、基本的な要請(基本法則あるいは公理)に、熱や温度という、ミクロ系の物理学にはない、熱力学に特有な量(つまり、熱力学をマスターしないとわからない量)が複数個登場する。そしてエントロピーを、熱と温度を用いて定義するから、熱力学に特有な(つまり、考えてみるとよくわからない)量を用いて熱力学に特有な(よくわからない)量をもうひとつ定義するようになってしまっている。わからない量からわからない量を定義するのが、はたしてわかりやすいだろうか?

何かが感覚的に受け入れられるとか受け入られないとかは、所詮心構えの問題にすぎない。
熱いとか冷たいとかを感覚でとらえることができるのは、熱いものに触ると熱が流入し、冷たい物を触ると熱が流失していくことを皮膚感覚で感じることができるからにすぎず、理解していることとは全く関係ない。

温度Tを認めるようにエントロピーSの存在を認めてしまった方が、物理は簡単になる。
そして、温度TはエントロピーSから導かれるものとして理解する。







さて、平衡状態*2では、エネルギーU、体積V、粒子数Nを変数としてエントロピーSが一意に定まる。
つまり、S(U,V,N)となる。
エントロピーSは、(U,V,N)で定まる関数なので、U,V,Nで偏微分することが可能だ。

つまり、
dS=\frac{\partial S} {\partial U} dU + \frac{\partial S} {\partial V} dV + \frac{\partial S} {\partial N} dN
となる。

ここで、
\frac{\partial S} {\partial U} = \frac{1}{T} , \frac{\partial S} {\partial V}= \frac{P}{T}, \frac{\partial S} {\partial N}=- \frac{\mu}{T}
とする。
T,P,\muには名前がついており、T:温度,P:圧力,\mu:化学ポテンシャルとなっている。

ところで、Tはなんとなく知っている温度なのだろうか?温度を何で知るかというと温度計で測る。温度計は、理想気体(PV=Nk_BTとなる気体、現実的には分子間力の小さい希薄気体)で調節される。

さて、理想気体エントロピーは、どうなるかと言うと、PV=Nk_BTを再現するように作る。

あれ、トートロジーになっているのでは?

結局、温度TかエントロピーSがどちらかが、もう一方を決める形になっていて、熱力学独特のマクロな状態を決めるパラメーターになっている。

で、結局、理想気体エントロピーはどうなるかと言うと、
S(U,V,N)=\frac{N}{N_0}S_0 + k_BN ln \left[\left(\frac{U}{U_0}\right)^c\left(\frac{V}{V_0}\right)\left(\frac{N_0}{N}\right)^{c+1}\right]

S_0,U_0,V_0,N_0は適当な定数。cは単原子理想気体では、3/2。cは内部エネルギーUの定積比熱U=C_v N(C_v=k_B c)を決める。

とりあえず、理想気体について、
\frac{\partial S} {\partial U} = \frac{1}{T} , \frac{\partial S} {\partial V}= \frac{P}{T}, \frac{\partial S} {\partial N}=- \frac{\mu}{T}
を解くと、簡単な計算により、

U=c k_B N T
PV= k_B N T
\frac{\mu}{T}=\left(\frac{S_0}{N_0}+\frac{S}{N}\right) -(c+1) k_B

となり、確かに理想気体の方程式を再現することが分かる。

うーん、だいぶ長くなってきたな。

最後にルジャンドル変換http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~tomatsu/shimizu.htmlについて、
熱力学的な情報は、S(U,V,N)が持っている。ここでの変数は(U,V,N)だけど、変数を(U,V,N)→(T,V,N)に変えることを考える。
S(U,V,N)と等価な情報をもつ熱力学的関数をF(T,V,N)と置く。
S(U,V,N)は上に凸なので、ルジャンドル変換することが可能。


F(T,V,N)の作り方は、以下の通り。
F(T,V,N)=U(S,V,N)-ST at S such that T(S,V,N)=T *3
よって、マクロな変数が(T,V,N)と決まる時は、ヘルムホルツの自由エネルギーF(T,V,N)をS(U,V,N)を熱力学変数をして用いればよい。

つぎこそはカノニカル分布。

*1:全部じゃないけれどね。

*2:十分に時間が経って、マクロ的には変化がなくなった状態

*3:U(S,V,N)はS(U,V,N)を逆に解く。