Thermal Pure Quantum States
統計力学の新しい基礎づけがなされたとのことで、
Phys. Rev. Lett. 108, 240401 (2012) - Thermal Pure Quantum States at Finite Temperature
を眺めてみた。
適当に書いたので、以下は全部ウソです。
通常の統計力学の基礎原理は以下の2つで構成される。
1)熱平衡状態を表す密度演算子は、
[tex:\hat\rho =\frac{1}{W} \sum_{n^\in energy shell} |n>
2)ボルツマンの原理
熱力学的エントロピーは
S=k_B log W
で与えられる。
たったこれだけ。
まず1)について、
統計力学でややこしいのは、密度演算子が物理的な実態を伴っていないことだ。統計力学では、何らかの平均的な操作をもってマクロな物理量を算出するということを行う。コップをいくつか用意して、その中にお湯を注ぐとする。ある温度Tにあるお湯の状態は、マクロにみれば、同じである。ところが分子レベルでみれば、その状態は異なる。統計力学は、ミクロな理論である量子力学を基礎にして、分子レベルで見れば異なるといったマクロには必要のない性質を取り除くことにあると考える。
次に2)について、
熱力学の偉大なところは、ミクロにみれば膨大な自由度を持つ系が、マクロな視点でみれば、わずかなマクロな変数で記述できる点にある。そして、熱力学にとって、最も重要な主張は、エントロピーSによって、系に順序関係を与えることができるということだ。エントロピーSは熱力学を特徴付ける量で、熱力学が熱力学にたる所以になる。そして、統計力学の重要な主張は、そのエントロピーを
S=k_B log W
で与えることができるということだ。
統計力学を眺めると、1)と2)の組み合わせて、みごとなくらいに熱力学を再現している。その際の1)と2)の役割は次のようなものだと考えることができる。
1)は、熱平衡状態にある系の典型的な状態を取り出す。
2)は、熱力学のもつ相加性を再現する。系全体のエントロピーは部分系の足しあわせになる。
2)のS=k_B log Wは、1)を踏まえた上で、熱力学的の相加性を再現するための導入されたと見て良いだろう。
1)と2)をもって、熱力学的が再構成される。
ここで、個人的には、「相加性から導出された S=k_B log W が、熱力学的なエントロピーの持つ順序関係までも表せるのは驚くに値する」と思う。これは状態数Wの大小がエントロピーの大小と一致しており、更に
物理現象が本質的には確率過程だからではないかと考えている。
ところで、熱力学的に典型的な状態を取り出すというのは、一体どういうことなのか?
例えば、普通の人を定義するとしたらどうするだろうか?
アインシュタインは普通の人だろうか?
ボルツマンは普通か?
あなたは普通の人か?
自分は?
年が30歳の普通の人を定義するとしたら、どうしようか。
ここで一つの方法は次のようなものになるだろう。
普通の30歳は多数派なので、30歳を全て集めて、その行動を平均すれば良い。
1)のやっていることは、そういうことなのである。あるエネルギー状態にある系をたくさん考えて、同じ重みを与えて、足し合わせるということをしている。そうやって得たものを使えば、熱力学的な平衡状態にあるある系の振る舞いが分かるだろうってのが、統計力学の戦略である。
[tex:\hat\rho =\frac{1}{W} \sum_{n^\in energy shell} |n>
ここで、が規格化条件を満たすランダムな複素数である。
は任意の基底だが、簡単の為、あるエネルギー値をとる固有状態だとする。
なお、は縮退しまくっている。
がランダムな複素数であることから、
のエネルギースペクトルは状態密度を規格化したものに一致する。
これを使って、エネルギースペクトルのピークが任意のエネルギーのところに行く操作を考える。
となる定数を定める。は E_iの最大固有値。
とやっていけば、エネルギーが、
となる状態が手に入る。このときに、温度に対応するものは、kとlを使ってかけますとのこと。
うーん、なるほど。
統計力学の分布関数というのは仮想的なものだったけど、この論文のエネルギー分布関数は系の状態を表していて、気体分子運動論とかにあるボルツマン分布と等価なものになっている。
そういう意味では、素直な物の見方かもしれない。の構成の仕方はわりかしどうでも良くて、温度Tの状態を表す確かに存在する状態ベクトルを一つ用意するということの方が重要なのかもしれない。