非平衡統計力学の摂動展開に対する疑問。
文化祭とやらがあって大学はしばらくお休み。学部の授業の手伝いとかしなくてすむから、ゆったりと時間がとれる。で、研究をしていた。
自分の研究では熱力学的な考察と相対性理論だけで統計力学を使っていないのだけれど、非平衡系の研究の統計力学的なアプローチでちょっと思うことがあったので書いてみた。
本当はcausal thermodynamicsについて書くつもりだったけど、それはいつかまた。
今から書くのは、「気体分子の速度の分布関数の摂動展開って、どれくらい意味があることなのだろうか」という疑問みたいなもの。
妄想です。
熱力学は一般には平衡状態*1で考えるんだけど、それじゃおもしろくないので熱力学をちょっと動きのあるところで考えたりする。これを非平衡系の熱力学という。
流体とかは非平衡系の熱力学に分類できる。"ちょっと動きのあるところ"で活躍するのが天文学由来の摂動展開。
摂動展開とは、何か関数があったときに大部分が主要項で決まるとし、それからのずれを表す摂動変数λの冪で関数が展開できるとする計算方法だ。
みたいな。
非平衡統計力学だと、気体分子の運動速度の分布関数の摂動展開をしてみたりする。
平衡系から少し離れた物理系を考えるんだから、悪くはない方法のように思える。
テーラー展開みたいなもん。
たとえば、こんな感じ。
さっきの部分で言うと、大部分を決める主要なパラメーターはx=T(温度),V(速度),ρ(密度)で、摂動変数はλ=∇v速度の空間微分,∇logT 温度の対数の空間微分 となる。
統計力学だったら、分布関数が
2次の項+...
where, =Maxwell Boltzmann 分布
で与えられる。
注意:通常は速度V(=注目している場所の気体分子の平均速度)は0としているので、Maxwell Boltzmann分布では速度Vのパラメーターが入ってこない。
平衡状態における気体分子のMaxwell Boltzmann分布は気体分子速度vに関する分布関数をあたえ、実際に観測できる。マクロな量を観察する上で、熱力学的な量であるエントロピーSもしくは温度Tは欠かすことができない存在だ。この関数の形は、統計的には、速度vの平均値0と分散v^2を知れば、一意に決まる。
ところで、任意の分布関数はキュムラント展開できる。すべてのキュムラント係数を知れば、それは分布関数を知ったことになる。
気体分子の運動について調べようとしたら、理想的にはすべての気体分子の速度vを知ればよい。しかし、マクロに観測する立場とは、それぞれの気体分子の速度を知るのではなく、その速度分布を統計的に知ろうという立場だ。
箱の中に閉じ込められた気体の速度の期待値はもちろん0だ。次に温度を測る。これにより、気体の速度の分散v^2が分かる。熱力学的なマクロな量の観察で分かるのは、気体分子の分散までで、それ以上の情報を得ることはできない。それ以上知ったら、物理量の数と分布関数の持つ情報の数(キュムラント)が合わなくなる。
0次(総量):密度ρ 1次(運動量の平均):ρv(=0) 2次(分散=逆温度):ρ/kT,where k = ボルツマン定数
3次: 何?
非平衡系は、平衡系に比べて情報が余分にある。たとえば、流れ
分布関数の平衡状態からのズレを計算することは、熱力学的には知ることのできない高次のキュムラントを求めることと同じで、その度に何か物理量もしくは物質固有の量が定まることになる。
流体の独立な変数は5つ「速度v:3、質量密度ρ:1、エントロピー密度s or 温度T:1」だ。
Maxwell Boltzmann分布は、平均値:一次のキュムラントと分散:二次のキュムラントで決まる分布だ。
流体などでは、摂動変数λをv,ρ,Tの空間微分∇v,∇ρ,∇Tでとっている。そして、物質固有の量としてズリ粘性係数η,圧縮粘性係数ν,熱伝導係数κがあるので、ボルツマン分布から一次の摂動をとっても、摂動をとったときの係数には一応の意味が付く。しかし、それ以上の高次の摂動をとっても、物理的な意味をつけることは苦しい。(ただし、高次のキュムラントもしくは摂動係数が二次から帰納的に定まる場合は除く。)
しかし、もっと言えば、分布関数の一次の摂動だって、物質定数(粘性係数、熱伝導係数)との数が合うぐらいにしか意味がないのではないのかなと思っている。
[参考書]非平衡統計力学
非平衡統計力学 早川 尚夫
*1:十分時間が経って熱力学的に変化がない状態。たとえば、温度が均一とか流れがないとか