散逸系の変分原理のセミナー@金沢大学(8月17日)

散逸系の変分原理のセミナーをします。
二本立てで、山口哲生氏の「破局的力学現象の高精度発生予測:座屈,破壊から地震まで」の次に発表になります。

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散逸系の変分原理

 物理法則の中には「ある汎関数に停留値を与える現象が起こる」と言い表せるものがあり、これらを総称して変分原理と呼ぶ。良く知られた例は、解析力学で教えられるハミルトンの原理である。散逸のない系の運動は、汎関数に停留値を与えるラグランジュ方程式で定まり、ルジャンドル変換を用いれば、これに等価な方程式として、正準方程式を得る。
 散逸のない完全流体に対しても、各流体粒子に付随した物理量の時間発展を見るラグランジュ描像であれば、質点系と同様にして正準方程式を得る。一方、空間に固定された点での物理量の時間発展を見るオイラー描像での完全流体の正準方程式を変分原理で得るためには、あらたに補助場を導入するなどの工夫が必要である。我々は速度場を制御理論における制御入力とみなし、「評価汎関数に停留値を与える最適制御を求める」という最適制御理論の枠組みを使って、理論の見通しを良くした。[1]
 散逸のある系では、摩擦や粘性などにより力学的なエネルギーが熱エネルギーに変換される。一般に散逸系でのエントロピーの時間発展は、他の状態変数の時間発展に依存する。しかし、エントロピーは、同時刻の他の状態変数から求めることはできない。このような状態変数の関係は非ホロノミック拘束条件と呼ばれる。我々は、非ホロノミック拘束条件下での最適制御問題を解くことで、上述の完全流体に対する変分原理を拡張して、ナビエ・ストークス方程式を導出した。[2]
 通常の流体力学では、運動量などの保存量の釣り合いの式を与えた後に、圧力や応力の具体的な式を代入して、運動方程式を求める。変分原理の利点は、この手順を踏まえるのが難しい系でも、系統的に運動方程式を導出できることにある。
 一般に、物理の微分方程式系は、対称性と熱力学第二法則を満たし、更に境界値問題が良設定問題になるものでなければならない。我々の変分原理は、物理系を制御系とみなしたときに、制御関数、汎関数、拘束条件から、系統的に運動方程式を導出する枠組みを与える。具体的に運動を知る為には、制御関数、汎関数、拘束条件が何であるかを知る必要があるが、我々の方法では、これらを先に述べた物理系の持つ制約条件に矛盾しないように与えることができる。
 最初に、我々の変分原理を質点系の例で説明し、次に、ニュートン流体や粘弾性体の運動方程式の導出し、最後に、気液系などの界面がある流体の運動方程式を導出する。[3]

参考文献
[1] H.Fukagawa and Y.Fujitani: Prog.Theor. Phys. 124 (2010) 517.
[2] H.Fukagawa and Y.Fujitani: Prog.Theor. Phys. 127 (2012) 921.
[3] H. Fukagawa, C. Liu, and T. Tsuji: arXiv: 1411.6760 (2014).