相対論的ナビエ・ストークス

広大なネットを徘徊していたら、
A covariant action principle for dissipative fluid dynamics: From formalism to fundamental physics
http://arxiv.org/pdf/1306.3345v1.pdf
なる論文を見つけた。

これは自分がやりたいと思っていた研究だ。ちなみに僕が2012年に出した論文は「A Variational Principle for Dissipative Fluid Dynamics」 タイトルがかなり似ている。そうなんです。変分原理の相対論的な拡張なんですよ。アイデアは前々からもっていただけど、百家争鳴状態の相対論的ナビエ・ストークスに殴りこみに行くには、非相対論で地固めをしてからと思っていたのだけど、先にやられてしまった。変分原理の定式化は散逸さえ決めてしまえば、運動は一意に決まってしまうので、定式化はしやすい。ただ、相対論の文脈で散逸をどう決めるのかは議論があるところだとは思う。ここが一番難しい。

流体力学を相対論的にするときの難しさは、主に2つある。
1つは因果律問題であり、2つ目は静止座標系をどうするかという問題になる。

因果律の問題
 非相対論的な定式化だと、方程式系が情報を超光速で伝達してしまうので、相対論的な定式化するにはなんとかしないとまずい。
一般には、Israel and Stewartの”second order" model が使われていて、僕ははっきり言って反対だ。
intoroductionに in contrast to the celebrated ”second order" model of Israel and Stewart from the 1970s [10, 23, 24] and similar effortsと書いてある。因果律を満すたすために”second order" を入れるのは、人為的だし物理的な根拠がない。僕は、欲しい性質がないからといって、すぐに二次の摂動を入れる議論は間違いだと思っている。

静止座標系をどうするか
 非相対論な方程式系を相対論的にすると、エネルギー運動量テンソルを考えることになる。ナビエ・ストークスは、もともと流体粒子の運動を記述する式で、流体の移動する方向を示す。
流体の移動する方向というのは、必ずしもエネルギーの流れる方向とは一致しない。熱流があるからだ。非相対論では、エネルギーの流れと流体粒子の流れは分離して考えることができるけど、相対論だと、エネルギーの流れも運動量に寄与するので不可分になる。つまり、熱流が運動量を持つ。そういうこともあって、相対論的な定式化をすると静止座標系はどうするかということが議論になる。静止座標系は流体粒子が止まって見える座標系なのか、それとも(熱流を加味して)運動量がゼロになる座標系なのか。
 僕はこの問題はどうでもいいと思っている。相対論は元来幾何学的である。つまり、座標系の議論が物理に本質的に効かない。そもそも、静止座標系を気にしなくてはならない定式化は幾何学的ではなく、本質を外していると思う。エネルギー運動量テンソルなどという座標系を与えて出てくるものを拠り所にしているから、本来、どうでもよいはずの静止座標系を気にしなくてはならないんだと考える。変分原理は幾何学的であって、座標系とは関係なく記述できる。変分原理なら、静止系がどうのこうの議論しなくてもすむ。そう、変分原理ならね。

さて、例のプレプリントがどの程度成功しているのだろうか?よーく読んでみようかと思う。