Navier-Stokes方程式

ナビエストークス方程式がどのように導出されるかが気になったので調べてみた。
流体には5つの要素があって、密度:ρ,エントロピー:s,速度(3成分):vがある。これらが完全に解けるためには、5つの方程式が必要だ。
質量保存則で密度ρについて、エントロピーの増大を表す式で、エントロピーsについて、Navier-Stokes方程式で速度場vについて解ける。

これで、めでたくそれぞれの時間発展が導ける。

ところで、エントロピー増大の式とNavier-Stokes方程式はどうやって導出されるのであろうか?

とりあえず、代表的な教科書を読んで眺めてみる。Euler方程式からNavier-Stokes方程式との流れなので、その順番で説明する。

ランダウ 流体力学
完全流体 1,2節

質量保存を述べ、運動量保存の式としてEuler方程式を書き下す。エントロピー保存則は断熱運動の条件として言及。

粘性流体 15,16節

完全流体から粘性項を考慮したものとして説明される。
運動量保存則で摩擦の影響を考えたら、Euler方程式はNavier-Stokes方程式になるという説明。
エネルギーの散逸については、運動エネルギー(ρv^2)/2の時間微分にNavier-Stokesを代入してその変化で散逸するエネルギーを求めている。

エントロピーについての記述は特にない。流体力学において、エネルギーの保存則は導出されるものという扱い。エントロピー増大則については特にコメントは無いけど、散逸するエネルギーは熱になるので、すぐにでる。あと熱流も考慮する必要はあるが、系が外界から断熱されているときは考慮する必要はない。

ランダウの扱いでは、エントロピー,エネルギーの式は、Navier-Stokesの副産物のあつかい。
運動量保存の式として、Euler方程式,Navier-Stokes方程式を導出するさいに圧力が与えれているものとしている。数学的には圧力が新たなる変数という扱いになるので、圧力に関する式がもう一本必要となる。方程式が閉じるためには圧力が密度ρの関数であるとかいう仮定をつける必要があるが、ざっとみた感じコメントはしていないようだ。


今井功 流体力学
完全流体

6節までにランダウと同じ方法でEuler方程式を導いている。7節で先程述べたことにつてのコメントがある。コメントをまとめると,以下の感じ。
速度場v,圧力p,密度ρの変数があるけど、Euler方程式と質量保存じゃ式が足りないよね。じゃあどうしよう。
エネルギー保存使おう。準静的であることを仮定すれば、
TdS=dE+dK-δW  S:エントロピー E:内部エネルギー δW:系に為される仕事
となる。でも、それでも何も求まらない。
圧力pが密度ρだけで決まるとしよう。(要するにエントロピーを無視する)
気化熱とか相変化がある場合は無理だけど、大体これでOKだよね。

「そんなので大丈夫か?」「大丈夫だ、問題ない
準静的は大丈夫か? 連続体として取り扱うことと歩調を合わせるもの。問題ない。
断熱的である仮定は大丈夫か? ρT(DS/Dt)=Q-div w (T:温度,Q:発熱,w:熱流) 右辺は0は自然だろ?問題ない。

圧力pが密度ρの関数であるから、方程式が解けるとしている模様。エントロピーの保存則はその根拠付の扱い。

粘性流体 61,63節

ランダウと同じ。
Navier-Stokesを運動エネルギーの時間微分に代入して、エントロピーの式を導出。
ρT(DS/Dt)=φ+Q-div w φ:散逸関数

静止状態の圧力pの扱いがどうなるのかが気になるが、特にコメントなし。エントロピーの式があるので、それを使って方程式を閉じさせるしかない。

方程式を閉じさせるためには、エントロピーの式か圧力の式を使うしかない。エントロピーの式はエネルギー保存則から導かれる。粘性流体では、圧力の式が分かりにくいので、内部エネルギーの関数ε(ρ,s)が与えられているものとして、エントロピーの式と合わせて、方程式を解くしかない。

総論
流体の教科書では、Navier-Stokesは単純に運動量保存の式として導かれ、エネルギー保存則が導出に絡むことはない。ただ、それでは方程式が閉じないので、エネルギー保存則を補助的に使うことになる。

つまり、運動量保存としてのNavier-Stokesとエネルギー保存則が独立の式として与えられている。

おまけ
相対論では運動量保存則をどう扱うかが難しい。内部エネルギーが座標系によっては運動量になってしまったりするので、非相対論のような運動量保存則を直感的に導出することが難しい。

僕の研究の宣伝
上にみたように、流体の運動に関して、エントロピーの式は、エネルギー保存則を通じて、最後におまけのように導出される。その際にNavier-Stokesは既に与えられたものとしている。

僕の研究はエントロピーの式が与えられた時に、Navier-Stokesはどう導出されるかということに答えている。まぁ、教科書とは逆なやり方なんです。
[1104.0866] A Variational Principle for Dissipative Fluid Dynamics