一般相対性理論のゲージ理論的見方(1)
とりあえず思いつく分だけ書いてみることに。(1)があるから(2)があるかも。そういえば、kinki kidsの堂本光一が「うたばん」で相対性理論について空気を読まずに話をしていた。彼は立派なオタクだと思った。
相対性理論はリーマン幾何学でやるより、ゲージ理論でやるほうが見通しが良い。そこで、何回かに分けて書いてみることにした。厳密には書かないけど、ごまかしたりはしないつもり。
ゲージ理論は物理と数学の両方から研究されてきたが、同じ概念に異なる名称が与えられている。僕はゲージ理論に関しては数学よりの言葉を使うけど、でも時々物理の言葉も混ぜる。
一般相対論は質点の物理学だ。質点の運動を語る為には、ある質点の空間での軌跡を知れば十分だ。
そこで物体の軌跡の舞台となる空間についての設定を考えてみようと思う。よく使う絵がこれ。
線γは物体の軌跡、曲面Mが時空(座標を引いてある)、接空間TpMが速度の空間だ。注意しなくてはならないことは、物体の位置を示す空間Mと速度の空間は同じものではないことだ。これを抑えないとこれからのゲージ理論の議論をすることはできない。
詳しくは、
特殊相対性理論‐hiroki_fの日記
dxとは? - hiroki_fの日記
底空間Mと接空間TpMを合わせた空間Eを考える。このような空間をfiber bundleとか言う。頭の毛をイメージしてもらうとわかりやすいと思う。
参考ページFiber Bundle -- from Wolfram MathWorld
頭皮を底空間Mとし、頭の毛(fiber)を接空間TpMとする。
数学的な説明はこの絵さえイメージできればいらない。
ちなみに電磁場だと頭の毛の変わりに〇が乗っているイメージ。
一般相対性理論だと底空間Mは時空で、fiberは接空間TpM(速度を表す空間)。髪の毛がまっ平らな平面になる。頭の表面に下敷きを乗っけていると思えばいい。
頭皮の絵を見てもらえばわかるのだけれど、髪の毛と髪の毛の間は移動することができない。髪の毛と髪の毛の間をつなぐルールが欲しい。このルールを数学では接続と言い。物理ではいわゆるゲージ場になる。なぜ、毛と毛の間を移動するルールが欲しいのかというと、微分がしたいからだ。
M(頭皮)上の軌跡をγ(t)とし、fiber(髪の毛)上の点をξ(γ(t))とする。(ξ(γ(t))は切断と呼ばれる。髪の毛上の点で毛を刈りそろえるイメージ)速度場vもTpM上の切断だ。そして、相対性理論では加速度aを扱うので速度場vの微分が欲しい。
微分は
で定義する。
しかし、分母の引き算t-0は良いとしても、分子の引き算ξ(γ(t))-ξ(γ(0))はどうするのだろう?異なる毛の間には何もルール(接続)を決めていなかった。
髪の毛の長さで引き算したらどうだろう?これも一つの手だ。これは接続を決めたことになる。
異なる髪の毛の長さを比較するには、どちらかの髪の毛を基準にしなくてはならない。
つまり、
なる線形同形写像をきめて
とすればよいことがわかる。単純に髪の毛の長さを比較するのは、と恒等写像で比較を行ったことに対応する。髪の毛の長さを比較するのにとかしても面白いかもしれない。これはワイルが電磁場と重力場を統一するために考えたものだ。ゲージ(長さの基準)を変えるのでゲージ理論の名前の由来になった。*1
ところで微分とはなんだろう?微分の性質を抽出すると以下のようなものになる。
f,gを関数として、
(fg)'=f'g+fg'
が成り立つ。
そこで、上記の性質をfiber上にも拡張することを考える。
ここでXを∂/∂x^i (i=0,1,2,3)、ξをファイバー上の点、fをM上の関数とし、共変微分∇を
満たすものと定義する。
これは、
が満たす性質である。
これで、接続の一般論は終わった。大体の本では接続は、
でいきなり定義されるので分かりにくい。こちらで定義したほうが数学的な議論が簡単だからだと思う。
一般相対論
やっと一般相対論について。
相対性理論では、計量gが与えられる。リーマン幾何学ではfiber bundleの考え方がないので計量は底空間Mに与えられているようになっているけど、本来は接空間TpMに与えられるものである。
TpMはfiberそのものだし、接続の決め方も無限にある。アインシュタインは接続の理論などは知らない*2で、リーマン幾何学を用いて一般相対性理論を作った。
ある接続∇がリーマン幾何学と同じ内容をもつためには、接続∇がファイバー内積gと両立して、かつ捩率テンソルTが0であるという条件を付ける。
つまり、任意の接ベクトルX∈TMに対して、任意の切断(相対論の場合はたまたまΓ(E)=TM)ξ,η∈Γ(E)=TMに対して、
が成り立つ。
これを満たす接続はたくさん存在する。さらに捩率テンソルTを0にする条件をつけると、接続∇は計量gに対して一意に定まる。
捩率テンソルTが0であるというのは、任意のX,Y∈TM
が成り立つことを言う。
つまり、リーマン幾何学は、ゲージ理論の特別な場合であることがこれから分かる。
リーマン多様体(M,g)上には、gと両立する接続∇でT=0であるものが一意的に存在する。この接続を(M,g)のLevi-Civita接続という
証明 略 いろんな本に書いてある。調和積分論 (現代数学ゼミナール)がお勧め。
証明が書いてあるのは、これら。
このへんの分野の聖書はこれ。
最小作用の原理とかヤンミルズ場との話とかは後でするかも。
*1:たしか、そうだったような。あとで調べる。
*2:接続の理論がメジャーになるのは1970年代から。有名な本Foundations of Differential Geometry Volume I (Wiley Classics Library)、Foundations of Differential Geometry Volume II (Wiley Classics Library)がある