一般相対性理論のゲージ理論的見方(5)

http://www.r.phys.nagoya-u.ac.jp/~sgoto/さんが丁寧な指摘を下さったので訂正しました。大筋には変更はないです。もちろん、間違いがあればそれは僕の不理解によるものです。

追記、リー微分と保存則について - hiroki_fの日記と内容がかぶってます。2年前に書いたことなので、書いた事実さえ忘れていました。

2011年2月15日追記 いろんな人の意見を聞いて、自分が間違えていると思ったことがあったので書き直した。

なんと2年前の記事の続き一般相対性理論のゲージ理論的見方(4) - hiroki_fの日記
ネーターの定理とアインシュタイン方程式

重力場の方程式を出すのに、物質の運動を表すLagrangian+曲率を表すLagrangianの計量の変分をとって計算なんて方法があるけど、これには注意が必要だ。
特に、物質の運動を表すLagrangianからから計量の変分をとってエネルギー運動量テンソルを導くには、ある条件が満たされている必要がある。

と書いておきながら、「ある条件」とは何かと答えないまま日記が終わっている。(ある条件とは”「\delta g^{ij}は独立じゃないが、\delta g^{ij}を引き起こす微小座標変換が独立である」”ということだ。これは、エネルギー運動量テンソルの導出がネーターの定理の適用であることを意味する。)
前回までのあらすじ

続きを書くつもりだったけど、2年間放置したままだった。一般相対性理論ゲージ理論で説明する文献は少なく教科書は大体リーマン幾何学で説明してある。
リーマン幾何学は接空間と底空間の違いを意識しないので、幾何学的な性質の由来がどこにあるのかが分かりにくい。それが相対性理論の理解を難しいものにしているのしている。僕は数学書でファイバーバンドルを勉強してから、相対性理論の本を読んだ。ゲージ理論さえマスターしとけば、古典的な場の理論を理解するのは難しいことはない。相対性理論に関していえば、

「物体の位置を示す空間M(底空間)と速度の空間(接空間)は同じものではない」。
一般相対性理論のゲージ理論的見方(1) - hiroki_fの日記

これさえ抑えとけば、相対性理論で間違えることはほぼないと思っている。

相対性理論ゲージ理論を書くとこうなる。数学と(物理)では用語が違うので、両方で表記をしといた。物理学者と数学者はもっとお互いに交流するべき

ファイバー(内部空間): 接空間(速度の空間)TpM
底空間(時空):4次元空間(物体の位置)M
接続一形式(ゲージ場): \omega^i_{j}

一般相対性理論のゲージ理論的見方(4) - hiroki_fの日記を参照
計量gはゲージ場ではないことに注意。相対性理論では、計量gが場だという説明があるが、ゲージ理論では、レビチビタ記号Γの一歩手前がゲージ場。もっと言うと、接続一形式は、計量とは関係なく定義でき、相対性理論「擬リーマン幾何学」では、

計量gと両立し、捩率0である接続一形式ωが一意に存在する

ので、たまたま計量gを用いて、ゲージ場である接続一形式ωを与えることができるのに過ぎない。

重力場の方程式を出すのに、物質の運動を表すLagrangian+曲率を表すLagrangianの計量gの変分をとって計算なんて方法があるけど、これには注意が必要だ。

だけど、場の理論として考えるなら、接続一形式ωの変分をとるのが筋だとは思う。
局所標構場(TpMでの基底)を(e_0,e_1,e_2,e_3)をとすると、共変微分\nablaとは、
\nabla e_k=\omega^i_k e_i
i.e.,
\nabla_{_{e_j}} e_k=\omega^i_k(e_j) e_i
の関係がある。

ここで、レビチビタ記号を\Gamma^i_{jk} \equiv \omega^i_k(e_j)で定義すると、擬リーマン幾何学では、
\Gamma^i_{jk}=\frac{1}{2}g^{il}(\frac{\partial g_{lk}}{\partial x^j}+\frac{\partial g_{jl}}{\partial x^k}-\frac{\partial g_{jk}}{\partial x^l})
が成立することが知られている。

よって、相対性理論「擬リーマン幾何学」に限れば、ωを場としようが、gを場としようが、数学的には等価だ。ただ、ゲージ場としてみるのであるば、ωを場と見るのが正しい。

本編

で、エネルギー運動量保存則がネーターの定理から導かれることを示したい。そのあと、アインシュタイン方程式変分法で導かれることを示す。

ネーターの定理とは、

作用Sの連続的な対称性に応じて,保存則がある。

というもので、非常に神々しい定理だ。宗教ぽい感じが良い。

数学的に言うと、

作用SをLie微分L_{X}したら0:L_{X}S=0にするようなべクトル場Xが存在し、L_{X}S=0の定義は後で与える。L_{X}S=0微分方程式なので、物理的には保存量として解釈できる。

これだけ。
ベクトル場はどこで定義されているかというと、座標変換に伴う数空間での値の変化で定義されている。
エネルギー運動量保存則は物理法則は座標系の選び方に依存しないことに由来する。

これって、場の変分をとっているわけではない。

さて、作用Sを物質場の作用S_mとする。後で重力場の作用S_gも考えることにするが、今は考えない。
これから、ネーターの定理を用いて、
\nabla_iT^{ij}=0 ここで、\nabla_iは共変微分
をエネルギー運動量保存則を求めよう。

相対性理論では、

物質の運動を表すLagrangianからから計量の変分をとってエネルギー運動量テンソルを導く

方法がある。これが実はネーターの定理そのものなのである。これが、Euler-Lagrange方程式を導く場の変分法とは全く異なるものであることを以下に示す。

S_m=\int L_m \sqrt{-g}d^4x ここで L_mは適当なラグランジアン 場φ(x,t)も適当
としよう。

普通のEuler-Lagrange方程式は、場φの変分をとって導かれる。

gの変分を取ると、エネルギー運動量テンソルを導く
\int \left( \frac{\partial (L\sqrt{-g})}{\partial g^{ij}}-\frac{\partial}{\partial x^k}\frac{\partial (L\sqrt{-g})}{\partial(\partial g^{ij}/\partial x^k)}\right)\delta g^{ij} d^4x


エネルギー運動量テンソルは、
T_{ij}=\frac{2}{\sqrt{-g}}\left( \frac{\partial (L\sqrt{-g})}{\partial g^{ij}}-\frac{\partial}{\partial x^k}\frac{\partial (L\sqrt{-g})}{\partial(\partial g^{ij}/\partial x^k)}\right)
となる。

実はこのgの変分を取るというのが、クセモノだ。
\delta g^{ij}が独立ならT_{ij}は0になってしまう。どうしてくれよう。

教科書には、「\delta g^{ij}は独立じゃないが、\delta g^{ij}を引き起こす微小座標変換が独立である」と説明されることが多いが、これは結局のところネーターの定理に他ならない。

エネルギー運動量テンソルを導く際にやっていることは、ネーターの定理の適用なのである
ネーターの定理は

ごっそり空間的に一様に移動させても物理法則は変わらない。またそのことから保存則導かれる

ごっそり移動させるということは、座標系を一様にずらすと見做すこともできる。もっと一般的に言うのであれば、
座標変換しても物理法則は変わらないことから、保存則が導かれる

微小座標変換との関連が見えてくる。この議論は、内山龍雄の一般相対性理論の不変積分論の第一ネーターの定理のところに詳しく書いてある。これを微分幾何学的に書いてみる。

座標変換を多様体論を使って厳密にやってみよう。(Wald:Appendix E,内山龍雄:不変積分論,松本:多様体の基礎)


多様体M(四次元の時空)とM上にあるテンソル場(物質場)をφとする。
局所座標系がとれ、多様体M上の点pから数空間R^4への写像f_\lambda(p)=(x_0^\lambda(p),x_1^\lambda(p),x_2^\lambda(p),x_3^\lambda(p))とする。
ここで\lambdaは局所座標系を区別するパラメータ。f_\lambda:M \rightarrow R^4を一変数微分同相写像族とする。
つまり、点f_\lambda(p) \in R^4は、λを変えていくとR^4空間内を移動していく。つまり、点f_\lambda(p) \in R^4は、ベクトル場Xに沿って、λだけ流したときの位置に対応させることができる。


今、作用S_mは、物質場φと計量gによって与えられるとする。ともにテンソル量。
計量gは多様体Mに予め与えられているとする。よって、場はφだけ。

また、引き戻しf_\lambda^* をM上のテンソルg,\phi*1に対して定義ができる。

物理法則が座標系によって変わることはないので、作用Sの値も変わらない。

つまり、S_m[f_0^* g,f_0^* \phi]=S_m[f_\lambda^* g,f_\lambda^* \phi]
が成り立つ。

上式より
0=\frac{dS_m[f_\lambda^* g,f_\lambda^* \phi]}{d\lambda}
が導かれる。

上式をもって、Lie微分L_{X}S=0を定義する。
0=L_X S_m=\frac{\delta S_m}{\delta g}L_X g + \frac{\delta S_m}{\delta \phi}L_X \phi

ここで、L_X g=2 \nabla Xの関係がある。
また、\frac{\delta S_m}{\delta \phi}はEuler-Lagrange方程式を満たしているので0となり、


0=L_X S_m=\frac{\delta S_m}{\delta g}=\int \sqrt{-g} T (\nabla X)  d^4x = \int  (\nabla T) \sqrt{-g}  X  d^4x

ネーターの定理とは、もう一度正確に書くと

S_m[f_0^* g,f_0^* \phi]=S_m[f_\lambda^* g,f_\lambda^* \phi]を満たすようなf_\lambdaがあると、それは
0=L_X S_mと書ける。これが、系S_mのfもしくはXに付随する保存則として理解できる。

ということである。

ここで、Xは任意なので、
\nabla T=0
となり、エネルギー運動量保存則を得ることができる。

つまり、以上から分かるように、gの変分を計算しているのではなく、Lie微分を計算した結果、エネルギー運動量テンソルTと、その保存則を得る。


次に重力場の方程式(アインシュタイン方程式)を求めよう。

R_{ij}-\frac{1}{2}Rg_{ij}=T_ij Cは宇宙定数

さて、作用Sを物質場の作用S_m重力場の作用S_\omegaの和で定める。
S=S_m+S_\omega
S_m=\int L_m \sqrt{-g}d^4x ここで L_mは適当なラグランジアン 物質場はφ(x,t)
S_\omega=\int L_g \sqrt{-g}d^4x ここで L_\omegaスカラー曲率 重力場はω(x,t)

さて、今まで計量gは多様体M上に予め与えられているとしたが、擬リーマン幾何学である相対性理論では、
ωとgに一対一対応がつく。gを重力場だと思えば、S_mは物質場と重力場の相互作用を表している項になる。重力が万有引力となる所以は、ゲージ場である重力場が計量gと結びつくことにある。

よって、
S=S_m(g,\phi)+S_\omega(g)
となり、

gについて変分をとれば、重力場の方程式が得られる。
S_mの時と同様に計算して、
(R_{ij}-\frac{1}{2}Rg_{ij}-T_ij)=0
を得る。

S=S_m(g,\phi)+S_\omega(g)にネーターの定理を適用すると、
L_xS_\omega(g)=0より、\nabla T=0を得る。

エネルギー運動量保存則はLie微分(ネーターの定理)で、アインシュタイン方程式は変分から得られるよ。
という落ちのない話でした。


最後に、ネーターの定理のから導かれる保存則が、

座標変換によるものなのか、それとも実験系を空間的に移動させることにあるのか

という問題だが、僕の感想を言うと物理法則が座標系に依存しないということのほうが、本質であると思う。

それぞれの立場は数学的には、
空間的に移動させる場合のベクトル場Xは多様体M上で定義され、
物理法則が座標系に依存しないことを表すベクトル場Xは数空間上で定義される。
の違いがある。

相対論だと計量gが場所の関数になるので、空間的な移動によって物理法則が変わらないとする根拠がはっきりしなくなる。よって、物理法則が座標系に依存しないということのほうが本質的ではないかと思う。

ランダウの力学の第二章は保存法則であり、それぞれ系を空間的に移動させても法則がかわららないこと(時空の一様性)から、エネルギー保存、運動量保存、角運動量保存を導いている。ニュートン力学では、質点の配置と空間を分けて考えることができるが、相対論になると質点の配置と空間は不可分になる。系全体を空間的に移動するということが、どういうことなのかがはっきりしなくなる。

角運動量保存則は、文字通り空間の回転対称性が効いていて、系全体を空間的に移動させることから導かれるのではないかと思う。(これは確認してない)

参考文献
ディラック 一般相対性理論 (ちくま学芸文庫)
シュッツ A First Course in General Relativity
ワルド General Relativity
佐藤勝彦 相対性理論 (岩波基礎物理シリーズ (9))


松本幸男 多様体の基礎 (基礎数学)
小林昭七 曲線と曲面の微分幾何
小林昭七 接続の微分幾何とゲージ理論
茂木勇 伊藤光弘 微分幾何学とゲージ理論
北原春夫 河上肇 調和積分論 (現代数学ゼミナール)

*1:そういえば、スピノール場はどうするんだっけ?スピノール場の引き戻しを議論している本があったような気がするけど、ちゃんとは見てない