オンサーガーの仮定について

ちょっと思ったことをメモがわりにつらつらと述べようかと思う。

オンサーガーの相反定理(1931年)というものがある。オンサーガーはこれでノーベル賞をとったし、相反定理はそれに値するすばらしい業績なのだが議論の展開に少し気になるところがある。

オンサーガーは、相反定理を導く際に、オンサーガーの仮定

平衡まわりの揺らぎが、平均として平衡からの巨視的なずれの減衰を支配する法則(ストークス方程式のこと)に従う

を用いている。

これは正しいことなのだろうか?これから80年経った今でもこれについて満足に答える説明はないように思われる。この仮定のオリジナルは、アインシュタインブラウン運動の拡散係数に関する研究(1905年)まで戻る。これは現在は、揺動散逸定理として一般化されている。

揺動散逸定理は、

外場に対する応答関数と熱揺らぎによる時間相関関数の関係

を表したものである。

さて、「揺動散逸定理」はどのように証明されるかというと、本質的には「オンサーガーの仮定」を用いている。久保の線形応答理論というのは、オンサーガーの仮定「ミクロの揺らぎに関する法則がマクロな変数の現象論的な法則に従う」というをハミルトニアン形式に書き換えたものにすぎない。

ミクロに揺らいでる量というのは確率的に扱うしかない。そこには量子力学が必要なのかもしれないし、統計物理学が必要なのかもしれない。
いずれにせよ、「ミクロなゆらぎを確率的に扱う、平均値をもってマクロな値とする」戦略は変わらない。そこには量子力学、統計物理学の枠組みに囚われないまたは依存しない共通の数学的構造があるわけで、それをどういうものかを見つけ出すのが、オンサーガーの仮定から抜け出す方策であろう。

横道にそれるが、相対性理論因果律の話はゆらぎの理論をミクロな範囲に抑えるのに重要だと思う。因果律が教えるのは、「ある時間スケールないでの相互作用が及ぼす空間スケールは光円錐ないに限られる」ということだ。量子力学だけだと、確率的に扱う空間が無節操に宇宙全体に広がってしまうので、因果律からくる空間的な縛りは重要ではないかと思っている。

さてと、僕の論文”A Variational Principle for Dissipative Fluid Dynamics”では熱力学の部分が非ホロノミックな拘束条件に集約されてしまっている。その意味を本当に理解するには、「ミクロなゆらぎを確率的に扱う、平均値をもってマクロな値とする」と「ある時間スケールないでの相互作用が及ぼす空間スケールは光円錐ないに限られる」がどういうことなのかという疑問を本質的に答えられたときになるだろうと思う。


参考文献
A Variational Principle for Dissipative Fluid Dynamics
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jps/jps/butsuri/50th/50%2810%29/50th-p699.html