特殊相対性理論
12月26日に池袋のジュンク堂に行ったら、
相対性理論 (岩波文庫) A. アインシュタイン (著), 内山 龍雄 (翻訳)
があった。
550円で手ごろだったし、アインシュタインの論文をじっくり読んだことがなかったので買うことにした。
今から書くのは読んだ感想。
僕の特殊相対性理論の知識は微分幾何がベースになっていて、以下のようなものだ。
四次元の多様体で計量テンソルがg=diag(-1,1,1,1)で与えられている。接空間と底空間が同一視でき、接続はトリビアルだからいい加減に計算しても特に問題がない。しかし、注意するべき。
これだけを知っていれば特殊相対性理論はなんとかなる。後は、ミンコフスキー図の見方を知っていれば十分だ。
でも、「相対性理論は微分幾何の応用だ」なんて知性のかけらもない発言をするつもりは毛頭ない。こういう発言をする人は物理も数学もできないような人だと思うけど、自分自身を見つめなおすと彼らを批判できるほど自分は相対性理論を理解しているかどうかはかなり怪しい。また、相対性理論を学ぶ際に「立ち話たか氏」のように「アインシュタインの原著論文はやさしいから、一読をお勧めする」と言って読者を放り投げる人もどうかと思う。
原著論文を見ることは重要だけど、別に聖典のようにすべてが書いてあるわけじゃなく、アインシュタインが特殊相対性理論をどう理解したかが書いてあるに過ぎない。アインシュタインの理解の仕方が特殊相対性理論の唯一の理解の方法じゃなく、別のやり方もあるし、理解の方法はアインシュタインのそれよりも洗練されていくべきものだと思う。つまり、アインシュタインの先駆者ならではの泥臭い(しかし明確な)議論を読んで、なるほどこれは「わかりやすい」なんて言えるような人は本当の意味で理解しているわけではない。
とだらだら述べたけど、僕は今までアインシュタインの論文を読んだことがなかった。
なんじゃそりゃ。
で、正月だし、寝そべりながらアインシュタインの特殊相対性理論の第一論文を眺めていた。僕の理解と関連させながら、説明したいと思う。
アインシュタインの論文には、
1 物理法則は慣性系の選び方によらない。
2 光速は光源の運動状態によらない。
の二つの原理が両立でき特殊相対性理論の帰結はこれから導かれると書いてある。しかし、実はもうひとつ隠れた条件がある。アインシュタインは明言していないが、
3 光速は、いかなる時いかなる場所でも同じである。つまり定数。
って条件を暗に同時刻面を定義する際に使っている。
そして注意するべきことは、原理1と2が空間の局所的な性質を与えるのに対し、原理3は空間の大域的な性質を与えていることだ。
アインシュタインは、原理1,2,3の帰結として同時刻が慣性系に依存することと、運動状態によって時の刻む間隔が異なることを示した。
アインシュタインの論文を読んで気がついたことだが、僕の微分幾何ベースの特殊相対性理論の理解では、慣性系と同時刻面の概念が抜けていた。もちろん、そういうものがあるのは知っていたが、それの意味について掘り下げることをしていなかった。
幾何では、座標とはイベントが起こる場所を単に数値的に表す以上の意味を持たない。つまり、ミンコフスキー図にあるように同時刻面を議論しないし、慣性系を特別視することもない。ところで特殊相対性理論で同時刻面は大域的な性質である。
大域的な性質は後で議論するとして、じゃあ今まで僕はどうやって、「物理法則は慣性系によらない」を微分幾何ベースで理解していたかというと、「ミンコフスキー空間(底空間)上にスカラー値を取るLagrangianは座標系によらずに決まる」と理解していた。解析力学だとLagrangianを決めれば運動方程式は最小作用の原理から定まる。
微分幾何的に考えるとスカラー値は座標系によることはないし、慣性系とは座標系の取り方のパターンに過ぎないから、つまりこれは、アインシュタインの原理1「物理法則は慣性系によらない」を「Lagrangianは座標系によらず決まる」とより広く一般化したことになる。
次に原理2「光速は光源の運動状態によらない」だが、これは接空間に計量を与えることに対応する。慣性系とは接空間の計量テンソルがg=diag(-1,1,1,1)で与えられる座標系のことを言っているに過ぎない。
ここで、接空間とわざわざ断ったのは、原理2が局所的に定義されているからだ。アインシュタインの原論文では光線の速さcが[光の進んだ距離:l(t)]/[伝播に要した時間:t]で定義されているが、通常速度はこれの極限 c(t)=lim t→0[l(t)/t]で与えられるべきで速度c(t)は接空間上の元になる。光速不変の原理は局所的に定義されていることに注意するべきだ。
接空間はベクトル空間になるので、適当な基底の一次結合でかける。今考えているミンコフスキー空間(底空間)は4次元で局所座標系をで与えると、任意の速度uは、
と書ける。
別の局所座標系をで与えると
と書くことができる。局所座標系やは底空間の位置を数値的に与えると言う意味以上のものはなかったが、ここで慣性系(t,x,y,z)という特別な局所座標系を用意する。慣性系から別の慣性系(t',x',y',z')での速度を計算すると、ある特別な速度cがあって、速度の成分をと置くとある慣性系から別の慣性系への速度成分について、常に
が成り立つ。これは接空間の計量を慣性系についてg=diag(-1,1,1,1)と定めたことに他ならない。逆に接空間の計量がg=diag(-1,1,1,1)で与えられる座標系の置き方を慣性系と呼ぶことにする。慣性系から慣性系への座標変換に伴うヤコビアンをローレンツ変換と呼ぶ。
最後に原理3「光速は、いかなる時いかなる場所でも同じである。つまり定数。」だけれど、これは接空間で定義した慣性系(局所座標系)を底空間でも扱えるようにするために必要だ。原理3によって、大域的に同時刻面が定義されるのだが、特殊相対論では同時刻面という概念はそれほど意味のあるものではないのではないかと考えている。これについては、いつかまた一般相対論について書くときにでも述べたいと思う。
最後に場の量子論でハミルトニアンを考えるけどあれは意味不明だ。なぜ時間だけを特別視して式の対称性を破壊しなくてはならないのかが分からない。
まとめ
特殊相対性理論は局所的な理論、大域的な議論は必然性がない。
特殊相対論においてパラドックスと呼ばれるものは大域的な性質にからむものである。
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参考書
相対性理論 (岩波文庫) A. アインシュタイン (著), 内山 龍雄 (翻訳)