一般相対性理論のゲージ理論的見方(3)

いよいよストークスの定理について。


なんとなく続いてきた本シリーズ。これで一区切り。
一般相対性理論のゲージ理論的見方(1) - hiroki_fの日記
一般相対性理論のゲージ理論的見方(2) - hiroki_fの日記

あと、檜山さんがこれに関連して、こんなエントリーを書いてくれました。
時計とポールで学ぶファイバーバンドル - 檜山正幸のキマイラ飼育記
電磁場のゲージ理論の話と圏について。接続を表す時計の絵が素敵です。
わかりやすいので、一読をおすすめします。


今回の僕のエントリーの内容は微分形式 - hiroki_fの日記の続き。接続の話は全く出てきません。


ストークスの定理(ガウスの発散定理)とは、Fをベクトル場としたときに成り立つ
\iiint_V div {\bf F} dxdydz= \iint_{\partial V} {\bf F}\cdot {\bf n} dS
のこと。

今回、考えてみたいのは、ストークスの定理をどうやってリーマン多様体(M,g)上で拡張するか。
もっと言えば、一般相対論でのストークスの定理がどうなるのかということ。

よく知られているようにストークスの定理は、微分形式を用いて
\int_C d\omega = \int_{\partial C} \omega
と一般化することができる。 幾何学ではコホモロジーを調べるための道具になる。

ストークスの定理は物理学では、Flow流れを解析するのに使う。
\iiint_V div {\bf F} dxdydz= \iint_{\partial V} {\bf F}\cdot {\bf n} dS
だったら、発散div Fを体積Vで積分すると、それはVの境界∂Vから流入する流れFを境界∂Vで積分したのと等しいみたいに解釈する。

さて、ディラック一般相対性理論 (ちくま学芸文庫)の25章は
一般相対論的なストークスの定理ガウスの定理についてである。

この本では、反変ベクトルAの発散を
A^i_{;i}=A^i_{,i}+\Gamma^i_{ji}A^j=A^i_{,i}+\sqrt{-g}^{-1}\sqrt{-g}_{,j} A^j
「;」は共変微分、「,」普通の微分
から、
A^i_{;i}\sqrt{-g}=(A^i\sqrt{-g})_{,i}
を導いて、
\int A^i_{;i}\sqrt{-g}d^4 x=\int(A^i\sqrt{-g})_{,i}d^4 x
を得ている。
そして、右辺はガウスの発散定理を用いて3次元の表面積分に直せる。
こうして、相対論的なストークスの定理を得ることができる。

この説明の中では、共変微分「;」が出てきた。しかし、最後に得られる式
\int(A^i\sqrt{-g})_{,i}d^4 x
には、共変微分は出てこない。

僕はこれを読んで、以下のことを考えた。

1.相対論的なストークスの定理の、共変微分「;」がきえてしまった理由は??
2.微分形式によるストークスの定理の一般化との関係は?
\int_{C} d\omega = \int_{\partial C} \omega

微分形式のストークスの定理を見ると、共変微分はどこにも入ってない。

結論を言うと、

野水 小林のfoundation of differential geometryを参考

(div {\bf X}) dv = L_{\bf X} dv
と発散がリー微分で定義されていた。

リー微分をつかってしまえば、共変微分は必要ない。

L_{\bf X} dv =(d \iota_{\bf X} + \iota_{\bf X} d) dv = d \iota_{\bf X}  dv
なので、ストークスの定理が使えて、

\int_V L_{\bf X} dv=\int_{\partial V} \iota_{\bf X} dv
が成り立つ。

これより
\int_V div {\bf X} dv=\int_{\partial V} {\bf X}\cdot {\bf n} ds
が言える。

共変微分を使ったストークスの定理は、接続がリーマン接続の時にこれから導かれる。


\int A^i_{;i}\sqrt{-g}d^4 x=\int(A^i\sqrt{-g})_{,i}d^4 x

最初に微分形式のストークスの定理について説明をしたいと思う。
\int_C d\omega = \int_{\partial C} \omega
この定理をちゃんと説明するのはめんどくさいけど、エッセンスだけだったら大したことない。

この式のCの領域を[tex:(0曲線と曲面の微分幾何

つまり、ストークスの定理とは、任意の多様体上で定義された微分形式ωについて成り立つ一般的な法則なのだ。そこには、計量とか接続とかの概念はない。

次に体積要素について。

体積要素について説明する。

面積もしくは体積とはなんだろう?

答え。多様体上のある領域Vから実数の写像を決めること。もちろん座標系によってはならない。

相対論では、体積要素は\sqrt{-g}d^4 xの4形式で与えられる。
つまり、領域Vの体積は
\int_V \sqrt{-g}d^4 x
で与えられる。詳しい話は、リーマン多様体上の積分について - hiroki_fの日記に書いた。


微分形式のストークスの定理
\int_C d\omega = \int_{\partial C} \omega
は、多様体上で定義された微分形式一般についてなりたった。
そこで、*v = v^i \sqrt{-g} \hat {dx^i}について当てはめてみる。
\int_C d*v = \int_{\partial C} *v
これを計算すると
\int_C \frac{\partial}{\partial x^i}(v^i \sqrt{-g}) dx^i \wedge \hat {dx^i} = \int_{\partial C} v^i \sqrt{-g} \hat {dx^i}
となり、まさに求めていたストークスの定理
\int(v^i\sqrt{-g})_{,i}d^4 x
となった。


参考文献
ディラック 一般相対性理論 (ちくま学芸文庫)
シュッツ A First Course in General Relativity
松本幸男 多様体の基礎 (基礎数学)
小林昭七 曲線と曲面の微分幾何
小林昭七 接続の微分幾何とゲージ理論
茂木勇 伊藤光弘 微分幾何学とゲージ理論
北原春夫 河上肇 調和積分論 (現代数学ゼミナール)